アリゾナ州ではただお一人の法廷日本語通訳者である橋本かおりさんが、資格制度や行動規範、仕事の流れ、メンタルヘルスなどについてお話してくださいました。橋本さんはカリフォルニア州の暫定法廷通訳者、アリゾナ州の最高裁判所認定A級法廷通訳者の資格をお持ちであり、この二州以外でも法廷通訳として活躍されています。私は訴訟関係の文書を扱うこともある翻訳者の立場で興味深くお話を伺いました。
まず、法廷通訳者に適用される倫理規定の厳格さと詳細さは予想以上でした。アリゾナ州の場合、法廷通訳者行動規範は10項目に及び、それぞれについて詳しい規定が設けられています。例えば、厳格な守秘義務が課されることに加え、関わった事件については守秘義務の対象外の事項であってもソーシャルメディアなどで意見を述べてはなりません。また、中立的な態度を保つことが求められており、そのため裁判所の控室などで当事者や弁護士と会話することも控えなくてはなりません。実際には弁護士に話しかけられて対応に苦慮されることもあるそうです。さらに専門職としての継続的な能力開発も求められます。
最近の動きとしては、パンデミックを契機にリモート通訳が普及しつつあり、遠隔地の案件も受けやすくなったそうです。AIの活用も始まっている一方で、人権や人命にかかわる司法や医療の分野の通訳では、人間の技術や知識、経験がまだまだ不可欠とみなされているというお話には、身が引き締まる思いでした。
メンタルケアの重要性も改めて認識することができました。業務のプレッシャーに加え、担当事件の中には悲惨な内容もあり、法廷通訳者の精神的な負担の大きさは容易に想像ができます。橋本さんは、通訳中は仕事と割り切って言葉に集中し、プライベートの時間には心と体に良いことを心掛け、例えばハイキングなど自然の中に身をおいてリフレッシュしたり、食事と睡眠に気を配ったりしているそうです。
法廷通訳者は「コミュニケーションの障壁を取り払い、英語能力の限られている人に司法への平等なアクセスを保障する重要な公共サービスである」という言葉が印象的でした。今回のウェビナーでは、行動規範の制約の範囲内でピンチや失敗談も交えたバイタリティーあふれるお仕事のお話を伺うことができました。法廷通訳者として活動中の方だけでなくそれ以外の方にとっても、多くの情報を得られると同時に励みになるお話だったと思います。
感想文 松本佳也
編集 三根翼、ハーバート朋子


Leave a Reply