ATAのベテラン講演者、青山さんによる今回のセッションは、文脈を理解することの重要性についてでした。今回もたくさんの例を使い、聴衆者に問いかけながら進めていく、分かりやすいセッションでした。
科学的な分野における英文を和訳する際に、以下の3種類の文脈に注意する必要があります。
分野・トピック
使われる分野やトピックによって、単語や語句の意味が異なることがあります。どの分野やトピックについての文章であるかを理解して訳し分けることが大切です。”Quenching”(焼き入れ、消火、消光、反応停止)、”integers”(整数、要素)、”interaction”(相互作用、交互作用)などが例として挙げられました。
言語
単語が文の中でどの品詞(動詞、名詞、形容詞など)として使われているかによって、その意味が異なる場合があります。例えば、”plastic”は名詞では「プラスチック」ですが、形容詞として使われている場合には「可塑性の」という意味になります。また語句の区切りを正しく理解することも大切です。”Pass on their own”は、”pass on/their own”(自身に伝播する)と区切るか”pass/on their own”(自然に解消する)と区切るかによって、意味がまったく異なります。
文化
文化に特化した単語や語句を和訳する際にも注意が必要です。英語には聖書に由来する表現が数多くあり、これらの表現はもとの聖書の意味から派生した意味で使われることもよくあります。例えば、”The Holy Grail”と”Goliath”は、使われる文脈によっては聖書からの直訳とは異なる訳になることがあります。
文脈を正しく理解して、このような単語や語句を訳し間違えないようにする方法として、以下の5つの方策が紹介されました。
- 読み直す
読者として自分の翻訳を読み直してみると、文脈に合わない訳になっていることに気付けることがあります。
- 他の意味である可能性も考慮する
正しい訳だと確信が持てない場合は、辞書を活用し、もっと適切な訳がないか探してみることが大切です。
- 文法的な手掛かりを探す
主語と述語の単数形・複数形が合っているかなど、言語的な手掛かりに注目すると、文の構造を正しく理解しているかをチェックすることができます。
- 分野の知識を深める
分野に特化した表現やイディオムを含めて、翻訳している文章の分野に関する知識を深めることが大切です。AI、オンラインリソース等を利用すると分野について調べることができます。
- 尋ねる
分からないときには尋ねることも大切です。前回の講演にもありましたが、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」です。
科学分野の翻訳に携わっている者として、「分野の知識を深める」ことの大切さは私も日々痛感しています。今回青山さんが紹介してくださったオンラインリソースも是非利用して、恥ずかしい誤訳を減らすように今後も努力していきたいと思います。
■大平和美 (Kazumi Ohira)
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