
Speaker: Shizuka Otake
Session Title: Beyond the Clock: Use Time Tracking to Improve Your Business
Review Author: 佐藤基(Hajime Sato)
タイムトラッキングとは、ツールやアプリを用いて各タスクに費やした時間を記録することを指す。弁護士やコンサルタントなど、時間単位で報酬を請求する仕事でよく使われ、筆者の知り合いの弁護士には複数のストップウォッチを同時に起動できるアプリで、各案件にかかった時間を分単位で記録している人もいる。では、フリーランスの通訳者や翻訳者がこれを導入した場合、どのようなメリットがあるのだろうか。ベテラン通訳者でATA認定英日翻訳者でもある大竹静さんがとても役立つセッションを行ってくれた。
大竹さんがタイムトラッキングをやってみようと思ったのは、2021年11月、コロナ禍の中で本を1冊訳すことになった時だ。長い時間がかかるとわかっていたので、アプリを使って時間を記録することを考えたという。
使ったアプリ(PC)はTogglの無料バージョン。仕事ごとにプロジェクトを作り、データの仕分けに使うタグを設定して、作業を始める時にタイマーを押す。終わったらタイマーを止める。基本はこれだけである。大竹さんはこの書籍翻訳以降、このトラッキングを4年近く続けてきた。
やってみて何が良かったのか。いちばん大事なポイントは、各プロジェクトの1時間当たりの収入がはっきり分かるようになったことである。通訳であれば、オンサイトの実通訳時間だけではなく、移動時間や事前準備にかかる時間もある。翻訳でも、調査にかかる時間や編集者とのやりとりなど、翻訳そのもの以外に時間がかかっているかもしれない。これらを全部記録することで、真の時間単価が計算できる。クライアントやタグを設定して継続的に使えばデータが蓄積され、仕事のやり方の改善などにつなげることもできる。
二番目のポイントは、マクロ分析が可能になったことである。年間を通じての1時間当たりの収入はいくらだったか、それは去年と比べて上がったのか下がったのか。月単位で見てどの月が忙しくどの月が暇なのか。費やした時間をクライアント別に集計すれば、主要クライアントが誰なのか、その顔ぶれが前年から変わっているのかが分かる。特定のクライアントに依存しすぎていないか。ある種のクライアントからの仕事が増えているのは、その業界が活気づいているからかもしれない。そういうことが分かれば、マーケティング活動につなげることができる。
他にも予期外の利点があったという。まず、漠然と抱いていた感覚をデータが覆すケースがあること。「楽しいから引き受けたが報酬は少なめ」と思っていた仕事が、実は時間単価にすると割の良い仕事だったという発見もあった。次に、タイマーを使うことで時間に対する意識が向上したこと。目の前のタスクに集中するようになり、別のことをやったり、非生産的な調査に没頭することが減った。さらに、「この類の仕事にはどの程度の時間がかかるのか」を現実的に把握でき、計画を立てやすくなったという。
トラッキングをやってみようという方への大竹さんのアドバイスは以下の通り。
- 個別の仕事に関するタスクのみ記録する。個別の仕事に関係のない事務処理やマーケティング活動は記録しない。(全部記録するのは大変)
- 長く続けるために完璧は求めない。リアルタイムでトラッキングができなかった場合は、後で概算を記入すればよい。
- タグの使用では一貫性を重視。ただし、変えたくなった時には変更してよい。
- ある程度データが集まったら分析すること。
筆者にとっては目からウロコのセッションで、大変参考になった。ビジネス経営の基盤となるデータを得る手段として、フリーランスにはとても役に立つ内容ではないだろうか。
【編集】ハーバート朋子


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