
Speaker: Miyo Miyagawa
Session Title: My Literal Translation Doesn’t Work–Now What?
Review Author: Akemi Grab
『ハリー・ポッター』シリーズの出版翻訳でご活躍されているMiyo Tatさんによる今回のセッションでは、『Harry Potter: Costumes of the Wizarding World』(ハリー・ポッターの映画衣装についての書籍)から取り上げた3つの例文の訳例を分析しながら、より自然で適切な訳文へと導く方法が紹介されました。
『ハリー・ポッター』のような出版翻訳では、原文の読者と同じように訳文の読者も意味やニュアンスを感じ取れるよう、表現を工夫することが求められます。そこでMiyoさんは、直訳とイメージの両面から丁寧に検討を重ねる2つのプロセスを併用する方法を紹介しました。まず1つ目のプロセスは、原文をいったん直訳し、意味が正確か、表現が適切かを確認しながら手直ししていくものです。もう一方は、原文から浮かび上がるイメージ(意味・映像)をつかみ、自分の言葉で表現したうえで、意味と表現の妥当性を検証・修正していくプロセスです。
たとえば、3つ目の例文は“Nobody can work a robe like Alan Rickman.”という英文でした。下線部を直訳すると、ローブを動かす(働かせる)となり、不自然な印象を与えます。
そこで、辞書や用例を丹念に調べ、manipulateに近い意味で用いられていることを確認します。また事前に参考資料として、アラン・リックマン演ずるスネイプ教授がローブの裾をなびかせて颯爽と歩く映像も提供され、この文が言わんとしているイメージが一目でわかるようになっていました。その後に続く文章でも、彼がいかに自在にローブを操るかが説明されていました。このように、最終的な訳文「ローブさばきにかけてはアラン・リックマンの右に出るものはいない。」に至るまでの翻訳プロセスの分析は明快で、説得力がありました。
このほか、英語の無生物主語構文の一般的な訳し方や、品詞にとらわれない発想転換など、自然な訳文に近づけるためのコツも数多く共有されました。中でも印象的だったのは、Miyoさんの徹底した調査姿勢です。たとえばinsightという1語をとっても、英英辞典、英和辞典、類語辞典などあらゆる情報源を綿密に参照し、さらに日頃から書き溜めている訳例リストを活用して、文脈に最もふさわしい訳語を追求していきます。原文の意味をできるだけ自然かつ的確に伝えようとするその姿勢と過程は、示唆に富むものでした。
最近話題となっている「AIに置き換えられない翻訳者」に求められるのは、表現を工夫しながら訳文の質を高めようとする飽くなき探究心と、原文の意味やニュアンスを可能な限り正確に伝えようとする情熱であると、あらためて感じさせられる発表でした。
【編集】ハーバート朋子


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